アメリカ肝臓学会(AASLD)2016座談会 in Boston
11月11日から5日間、Bostonでアメリカ肝臓学会(AASLD)2016が開催されました。第3内科からは日浅、阿部、熊木、廣岡、大野、渡辺、宇都宮の7名が出席し、下記6演題を発表して来ました。今回は現地で特別ゲストを迎え、日浅教授の司会のもと会食しながら座談会が開催されましたのでご報告します。特別ゲストのコメントは最後の方です。
発表演題名
宇都宮: “Upregulated palmitic acid absorption with altered intestinal transporters in non-alcoholic steatohepatitis (NASH)”
渡辺: “The roles of Protein kinase R and its possibility as a therapeutic target in hepatocellular carcinoma with hepatitis C virus infection”
大野: “Down-regulated acidic leucine-rich nuclear phosphoprotein 32 family member B (ANP32B) has a role in suppression of apoptosis, and is associated with poor prognosis in patients with hepatocellular carcinoma”
廣岡: “The efficacy of radiofrequency ablation combined with transcatheter hepatic arterial chemoembolization for patients with BCLC stage B hepatocellular carcinoma”
熊木: “Patients with HBV and HCV chronic liver disease under surveillance for HCC are diagnosed with pancreatic cancer at early stages”
阿部: “Accumulation of monocytic myeloid-derived suppressor cells in the liver of a murine model of non-alcoholic fatty liver disease”
日浅:皆さん、今回は発表お疲れ様でした。今回も6演題と多くの演題が採択され、皆さんの日頃の研究成果が確実に出ていますね。さて、座談会ということでまずは発表した研究内容を順番に教えてもらいましょうかね。まずは、一番若手の宇都宮先生から行きましょう。
(食後のデザートに大喜びの廣岡先生)
宇都宮:演題の要点ですが、飽和脂肪酸は肝臓に炎症・脂肪化・線維化を惹起し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を誘発することが知られています。これまでNASHでは、飽和脂肪酸の肝臓での新規合成、内臓脂肪由来の供給増加については増加することが報告されておりました。しかしながら、腸管由来の飽和脂肪酸の吸収動態については明らかとなっていませんでした。そこで、腸管由来の飽和脂肪酸の吸収動態について注目し、肝毒性の面で注目されているパルミチン酸を安定同位体で標識し、呼気を採取することで、パルミチン酸のNASHにおける腸管吸収動態の変化を評価しました。その結果、NASHではパルミチン酸の腸管吸収は増加しており、特に、門脈のパルミチン酸吸収増加は肝臓の脂肪化・線維化と関連することが明らかとなりました。
(ドヤ顔の宇都宮先生)
日浅:そうですね、第3の経路があるかもしれないという研究内容ですね。NASHはここ数年最も注目されている分野と言っても過言ではないので、かなり注目されたのではないですか?
宇都宮:実は今回が2回目の国際学会への参加となりましたが、1回目はポスターを張ったものの傍観者然としており、学会中の記憶はあまり残っていませんでした。しかし、今回は次から次へと質問攻めに合い、前回に比べてポスターの近くに立つことができたと思います。(笑)
日浅:そうですか、それはそれですごいですね。先生は英語が得意と
聞いていますが、そのまま受け答えができたってことですね。
宇都宮:……。いいえ、私をガードしてくれていました熊木先生の同時通訳を介して答えました。
(外人に取り囲まれる宇都宮先生)
日浅:いやあ、それでもすぐに答えられたのだから大したものですよ。今後が楽しみですね。学位の論文も近々アクセプトされることでしょう。では、次は渡辺先生お願いします。
渡辺:演題の要点ですが、PKRがHCV関連肝細胞癌において、DNAメチル化酵素の発現に関与し、種々の遺伝子のメチル化を変化させていることを明らかにしました。特にPKRはPREX-1の発現を、DNAメチル化を介して増加させていました。さらに肝細胞癌のマウス皮下移植モデルを用いて、PKR阻害剤の投与が肝細胞癌の増殖を抑制することをin vivoで示すことができました。
(高い位置でもポスター貼りに困ることのない渡辺先生)
日浅:先生の研究のいわゆる”future direction”を教えて下さい。
渡辺:PKRの腫瘍の増殖抑制作用をうまく利用して新たな治療薬の開発へと進めることと、肝癌に対してPKRの持つ未知の作用を解明することです。
日浅:そうですね、新規治療にも展開する可能性のある、夢のある研究なので引き続き頑張って下さい。それでは大野先生に移りましょう。
大野:肝細胞癌におけるANP32Bの役割に関する研究内容です。ヒト肝細胞癌組織において、周囲の非腫瘍部と比較し相対的にANP32B mRNAの発現が低下している群において、UICC stageが進行しており、予後不良と関連することを見出しました。また、肝癌細胞株を用いた研究で、ANP32BはBadリン酸化やBak, Baxの発現に関連し、アポトーシスを制御している。ANP32Bは肝細胞癌に対する新しい治療標的、予後予測マーカーになりうる可能性が示唆されました。
(来年以降も国際学会での発表を誓った大野先生)
日浅:Audienceの反響は如何でしたか?
大野:興味をもった方が何人かはいらっしゃいました・・。今後は、英語力をつけてしっかりポスターの前で構えられるようにしたいです。
日浅:そうですね、さらに英語力を磨いて下さい。そして、研究に関する今後の方向性についてはさらに考えて行きましょう。では、ここからはベテランですね。皆さんは国際学会の場数も踏んでいるので、研究中あるいは今後研究を志す若い先生へのメッセージも含めてコメントを下さい。
(何度も会場に足を運んだと主張する廣岡先生のポスター)
廣岡:発表内容の要点はHCCでBCLC B1、B2に該当する症例に対して肝切除、RFAの予後が欧米で標準治療とされているTACEを上回っていたというものです。私はヨーロッパの国際学会専門なので、アメリカでの発表は初めてでしたが、日本が素晴らしい国だということを再認識しました。HCCの治療成績は群を抜いていますし、食べ物もそう。同じお金を出したらロブスターの10倍美味い伊勢海老が食べられますよ。
熊木:会期中m3の速報でも掲載されましたが、HCCサーベイランスが実施されていたHBVまたはHCVによる慢性肝疾患患者では、膵臓の間接所見、すなわち主膵管拡張および嚢胞性病変の拾い上げによって、膵癌の早期診断に繋がることを報告しました。数名の外国人から“very clever”とコメントを頂きました。日々の診療で常識として分かっているとこはたくさんあります。しかし、実際にはまだまだ解明されていないこともたくさんあります。日々の診療を振り返り、検証することこそ臨床力を高める近道だと思います。第3内科にはそのことを意識しながら診療している指導医がたくさんいますので、是非とも研究の道もかじってみて欲しいですものね。
(m3.comの取材を受けた熊木先生)
阿部:今回は3月に帰国しました中国からの留学生の姚さんと一緒に研究してきた骨髄由来抑制細胞の脂肪性肝疾患における役割を発表しました。今までに多くの先生と研究をしてきましたが、留学生を一から指導したのは初めてでした。姚さんの研究成果を国際学会で発表するのは感慨深いものがあります。肝臓と免疫の研究を始めて20年が経ちますが、研究は奥深くまだ解明することがたくさんあります。ぜひ多くの若い先生と研究を続け、臨床に還元できればと思っています。自分の発表とは別に今回の学会ではピッツバーグ大学留学中に指導したアメリカ人の大学院生も発表しており、一緒に食事にも行きました。そういう意味では非常に縁を感じる学会でした。
日浅:ベテランの先生はこれまでに研究成果を挙げてますので、さすが説得力のあるコメントですね。さてさて、皆さん学会以外にも印象に残ったことがあるはずでしょう。今後の抱負とともに順番にどうぞ。
宇都宮:熊木先生の逐次通訳のもと、初めて、研究のことで他国の研究者とコミュニケーションを取ったことが印象に残りました。学会でも多くの質問を受け、意義のある研究テーマであることを再確認でき、今後もさらに研究テーマを発展させていきたいと思います。学会以外のことになりますが、食べ物が予想以上においしく、滞在中にかなり肥えました。
(Bostonの魚介類を食べ尽くした宇都宮先生)
渡辺:今後も研究を続けて、継続してAASLDで発表できるようにがんばります。印象という訳ではありませんが、ジョン・ハーバード像の足を撫でて、いい論文がたくさん書けるようにお祈りして来ました。(笑)
(Gastroenterology, Hepatologyを目指す渡辺先生)
大野:ボストンはマラソンコースとしても有名です。準備したマラソングッズを身にまとい、ボストン市内の自然豊かな街並みや綺麗な川を眺めながら、絶好のランニングコースであるチャールズ川のほとりを早朝ランニングできとても爽快でした。時差ぼけのお陰でした。前回同様、今後も英会話、頑張ります。
(大野先生がジョギングを堪能したチャールズ川)
熊木:ボストンフィルハーモニーも良かったですね。しかし、最前列というのは椅子の脚しか見えませんね。
熊木:それから、あの大音量の中でも寝られる人がいるのにも驚きました。いくら時差ぼけとは言え。最前列の演奏者が苦笑してましたよ。
日浅:はは。それぞれ新しい発見があって良かったですね。一日中、学会会場に缶詰も辛いですからね。学会会場以外のイベントも国際学会参加の楽しみでもありますね。それでは、最後に本日の特別ゲストからコメントを頂くことにしましょう。
特別ゲスト:まず本日の会食ですが、割り勘でお願いします。
“I have nothing to disclose”
業界は厳しいんですよ。(笑)
(日浅教授就任後、実は初めての再会でがっちりと握手)
日浅:初めにdisclosureとは相変わらずさすがですね。(笑)
特別ゲスト:いや〜、皆さんに久しぶりにお会いできて嬉しく思います。それにしても凄いですね、AASLDに6演題も採択されるなんて。それ以上に驚いたのは、こんなに大所帯で国際学会へ参加されるようになったことですよ。昔はね……。
(熱く語りだし、暴走し始めそうになる特別ゲスト)
日浅:はいはい、まあまあその辺りで。それでは皆さん、帰国後もまた良い仕事をしましょう。そして、来年も来ましょう。
こうして楽しいひとときがあっという間に過ぎました。まだまだ物足りない方のために番外編を準備してあります。
番外編
初日、学会会場につくと我々より先回りしていた大先生の姿が……。
最終日に確認すると大先生に続けと、世界中の肝臓専門医が……。
ちょうど紅葉がきれいでした。
〜 THE END 〜 >